ワザとしての知
 浅草に住むいとうせいこうが「自宅からふらふら歩いて出ていって知人の話を聞いて帰ってきた結果」が本書である。が、本邦随一のマルチ職人である著者がタダで帰ってくるわけはない。種々の職人さんとの何気ない会話から、創造の真髄に触れるほどの深い話を引き出して手みやげとしてくれる。
 初出は雑誌『考える人』の連載だが、登場するのは「考えない人」や「手で考える人」ばかりである。
 現代の知は身体という具体性の地平を失って久しい。職人とは、いまだにその身体に由来するリアリティを生きる知性のことだ。手と道具を通して対象と直接に対話をし、その対話に導かれて軽やかに思考や論理を超えてゆく。自我と環境は作業としてひとつとなり、創造という奇跡を産む。その瞬間の恍惚を職人は知っているのだ。そしてその歓びに職人ではないぼくたちも感応し「ゆえにこそ僕たち人間は人間でいられるのだ。」