朝日カルチャーセンターでの講座。
http://www.acc-web.co.jp/sinjyuku/0410koza/A0202.html
んで、見田先生登場。
「まぁ、その…、持つべきものは優秀な弟子といいますか…」
宇佐美圭司『20世紀美術』岩波新書
に引用されているミラン・クンデラ『不滅』のはなし。
主人公ルーベンスはある日ニューヨークのMoMaを訪れた。 当時MoMAの2Fには20世紀前半(第1ステージ)の作品が展示され、 3、4Fには20世紀後半(第3ステージ)の作品が展示されていた。 ルーベンス(=クンデラと考えていいだろう)は2Fの展示は賞賛するが、 3、4Fについては評価しない。 (↑このへん『20世紀美術』を持っていないのであいまい…。どなたか正確な引用を。)このクンデラの批判を手がかりに、20世紀美術を考えてみたい。
| - | 生没年 | パリに出てきた年 | Wikipedia |
| マチス | 1869 - 1954 | 1891 | Wikipedia:アンリ・マティス |
| ブラック | 1882 - 1963 | 1900 | - |
| ピカソ | 1881 - 1973 | 1900 | Wikipedia:パブロ・ピカソ |
| エルンスト | 1891 - 1976 | 1917 | Wikipedia:マックス・エルンスト |
| ミロ | 1893 - 1983 | 1919 | Wikipedia:ジョアン・ミロ |
| ダリ | 1904 - 1986 | 1928 | Wikipedia:サルバドール・ダリ |
| マグリット | 1898 - 1967 | 1927 | Wikipedia:ルネ・マグリッド |
(クンデラがあげた6人 + マグリッドは「私が好きで付け加えた」)
いずれも若いときにパリに出てきている。
ほかにも、シャガール、モンドリアン、モディリアニ、藤田嗣治、ルオー、ユトリロ。
共同体(ゲマインシャフト)と市民社会(ゲゼルシャフト)という言葉を使えば、
サローン、カフェ、ギャラリー etc. は、市民社会の持つ自由や交流の多彩さと、
共同体の持つ暖かさや深さを兼ね備えた場であった。
マグリッドの絵の鑑賞
絵には描かれている物とは関係のない説明文が書いてある。
ろうそくに「天井」、金づちに「砂漠」といった具合。
シュルレアリスムの美学とは、あるはずのないものが、あるはずのないところにあること。
【Objet:対象】
(その本来の場所と文脈から解き放たれて)自由に浮遊する事物やパーツ。
その偶然の出会いと新しい結合の美学。
【Subject:主体】
共同体から解き放たれて自由に浮遊する現代社会の「個人」たち。
その偶然の出会いと新しい結合の夢。
シュルレアリスムの絵画が与える自由感、開放感と、不安は、
現代社会の人間の恍惚と不安と重なる。
「道化師」
左にはしご、右に猫。
解放、自由へのあこがれを表現。
「月に吠える犬」、「うさぎ」
やはり左にはしご状のもの、右に動物。
月へのあこがれ。
「真夜中のナイチンゲールと朝の雨」
はしごが抽象化されてくる。
「青」(丸や楕円が並ぶだけの抽象的な作品)
突き抜けた自由や開放感がある。
抽象というと、冷たい方向にいくことが多いが、
ミロの場合は幸福感や暖かさがある。
「題名忘れた」(丸にはしご。晩年の作品)
暖かくて生命力に満ちている。
ミロの生涯の勝利の宣言であるという評もあるが、
私もそう思う。
ミロも絵もそうだが、シュルレアリスムの絵には、
左上に対象、右下に主体(作者)を対置したものが多い。
対象へのあこがれ、主体の不安を表現している。
根本的な人間の欲望は二つあると僕は思っている。
・翼を持つことへの欲望
・根を持つことへの欲望
人間はこの二つの欲望のダイナミズムや矛盾を生きる。
パリに出ること : 翼を持つこと : 市民社会(ゲゼルシャフト)
母よ母よ母よ : 根を持つこと : 共同体(ゲマインシャフト)
「ポルトガルの聖母」(聖母像に穴があいている)
古典的な美学と現代的な美学が同居している。
開放感、自由感、不安感。
「レダアトミカ」(人妻と鳥が浮遊している)
突き抜けた開放感と同時に、浮遊感、不安感、無根拠性。
「瞑想するバラ」(バラが空中に浮いている)
人は地上から離れることはできないが、
瞑想によって僕らは地上から離れることができる。
「すべては、自由(liberte)の意味するところによる」
―エリアーデ
liberte - liberation
日本語では気づきにくいが、自由、解放、解脱はつながっている。
前近代人が解脱しようとすると、出家するしかなかった。
出家とは出郷のことでもあった。
ある意味、現代人とは、否応なしに出家してしまった人。
解脱の境地と現代人のおかれている現状は意外に近い。
